生涯にただ一冊の句集「生きてこそ」 山本久子 | 「生きてこそ」俳句抜粋のページ画像:ヘッダー 生涯にただ一冊の句集「生きてこそ」山本久子著
生涯にただ一冊の句集「生きてこそ」 山本久子 | 序文/青柳志解樹先生のページ画像1:序 青柳志解樹 山本久子さんから、句集上梓の相談を受けてから二年近くなろうか。先ずは印象に残る句を年代順に書抜くことから進めて下さい、と当り前のアドバイスをした。しかしこれがなかなかの厄介な作業で、困憊ぶりをきかされることもあった。それもそのはず、彼女の俳句歴は三十数年に及んでいるから、ざっと 推定しても三千句ぐらいの数に上る。それを自選する苦悩は並大抵ではないし、一冊に集約することは更に難事業だ。 六月のある日、彼女はその草稿を持って訪ねてこられた。七百余句が原稿用紙にきっちりと記され、卒寿に近い人の稿とは思えぬ気力に打たれた。集名『生きてこそ』は、彼女の人生への思いそのものであろうと思われた。 さて、この七百余句を再選するのが私に課せられた責務である。この責務について私は二つの視点を設定した。一つは俳句作品としての評価であり、もう一つは著者山本久子さんの人生の一点としての意味をもつかどうかの判定である。 そもそも山本久子さんとの出会いは、「あとがき」に山本さんが書いているように、「山歴」創刊以前であり、すでに三十数年の月日が流れている。もとより「山歴」の最古参の人であり。また人望篤く、支部の結成や。行政とのタイアップ事業の推進など、公私共に数々のご協力をいただいた。  さて、三十数年の交遊ともなれば、失念してしまったことも多いが、いま句稿に目を通すと、思い起こすことも多々あってなつかしい。 
生涯にただ一冊の句集「生きてこそ」 山本久子 | 序文/青柳志解樹先生のページ画像2:序 青柳志解樹    春の雨にも図太さのありにけり    春の雨の概念に左右されることなく、現実的に受止めたが、図太さはユニークな発見。  仕事場に入る初詣の人見つつ   七宝教室を持ち、七宝作家を目ざしていたころの作。正月の早暁から仕事場 に入るのだ。    風邪の児をテレビの前に寝かしおく   ひとり寝室へ寝かすのではなく、明るい茶の間に寝かせて見取る。市井の情感に満ちた明るさ。  登山電車車掌がおろす豆腐の荷   箱根登山鉄道であろう。庶民の心豊かさに気分がなごむ。作者は誰よりもこうした状況を好む。掲出した四句は、作者のもっとも初期の作だが、どれもしっかりしていて危なげないのは、生活という土台を踏まえているからであろう。年代の趨勢を考えぬではないが、以後の作品においてもこのスタンスに大きな変化がないのは、これが山本さん本来の個性というべきであろう。
生涯にただ一冊の句集「生きてこそ」 山本久子 | 序文/青柳志解樹先生のページ画像3:序 青柳志解樹      鴉加賀と啼く雪吊りの天辺に    観音と達磨の町の空つ風     詩を吐けと煙吐く浅間山笑ひけり   団体バスより縮緬着の十夜婆   那珂川や滔滔と鮎落しけり    オブラートのひそひそと鳴る春夜かな     盆前の若き尼僧の腕まくり    青葉潮光る故郷へ嬰を見せに     花菖蒲雨に掲げる大髻    半夏生竹さらさらと陽をもらす   昭和六十二年以降約十年の作品の中から十句抽出してみた。いずれも骨太で、男性的な句が多く、前にも述べたように個性がはっきりしている。それに加えて季語に遊びがなく一体化していることに注目させられる。俗に肝っ玉母さんというが、まさにその感じだ。   ところで、本句集について特筆しておかなければならないのは、平成十九年 不幸にもご主人と一人息子さんを相次いで亡くされたことである。永別を詠んだ句々には深く心打たれる。
生涯にただ一冊の句集「生きてこそ」 山本久子 | 序文/青柳志解樹先生のページ画像4:序 青柳志解樹      おぼろ夜や終の別れも言はで逝く   夫と子を亡くした年です暦果つ   年迎ふ亡夫の時計の螺子捲いて   残されて残る虫の音聞くばかり    夫の忌が来る朝ざくら夕ざくら     こうした句には何の説明も要らない。千里同風と言おうか、行雲流水と言おうか、永遠の自然を感じないだろうか。   さて、以前ある著名な俳人が、「家集は生涯に一冊がよし」と言った言葉が思い浮かぶ。『生きてこそ』はまさに山本久子さんの生涯の一集であろうと思う。何よりも尊く意義深い句集である。    久子さんは間もなく卒寿だが、なかなか意気軒昂で、私はそれをうれしく眺めている。家庭にあっては長女ひとみさんが何くれと気遣いしてくれているようだから、恵まれた老後というべきだろう。これからも生きる証として俳句行脚を続けて欲しいと願っている。  平成二十四年八月二十日

     
     
     
     
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